ほわっ。
鰻が溶けた。
その鰻はなにも繊維がなきかのように、舌の上で溶けていった。
豊かな脂に包まれるが、すうっと消えて、跡形も無くなる。
豊かだが、同時にいたいけな気配があって、心が焦らされる。
入谷「のだや」で「初うなぎ」をいただいた。
去年の冬に捕獲した稚魚を半年間川の水で育て、大きくした鰻である。
まだ川の匂いも、脂のくどさも、凛々しき筋肉もついていない、つたない鰻なのである。
一口食べて、そのはかなき食感と脂の切れの良さに陶然として、しばしご飯を食べるのを忘れてしまった。
ご飯とともに食べると、上等な握りを食べているように、ご飯と一体化する。
試しに山椒をかけてみたが、山椒の苦みが出て、まったく合わない。
普通だとやや固いしっぽ部分も、ふわりと崩れ、味わいが濃い。
こいつをご飯と合わせ、口に運ぶ瞬間にくるりと返し、鰻を舌側、ご飯を上にして食べてみた。
タレの染みたご飯と鰻が、口の中で抱き合い、舞う。
脂とご飯の甘みが合一して、消えていく。
その恍惚に、一瞬、気が遠くなった。
ほわっ。 鰻が溶けた
食べ歩き ,