ふんわりと箸先が沈んでいく

食べ歩き ,

ふんわりと箸先が沈んでいく。
一口大に切ってつまめば、それは見た目以上に重かった。
口に運べば、もっちりとして、かすかに歯を押し返すが、5回ほど噛むと消えてしまう。
口の中で、草が揺れる。
青い、野生の香りとほのかな甘い香りが入り混じって、鼻に抜けていく。
塩をつけて食べれば、隠れた甘みが顔を出し、わさびをくるみ、醤油をちょんとつけて食べれば、酒を呼ぶ。
今度は噛まないことにした。
箸でつまんだ蕎麦がきを、唇で挟み、舌の上へと移動させ、舌と上顎だけで押しつぶしてみる。
するとどうだろう。
上顎にしなだれ、舌にからんで、どうにも焦れったい。
かすかな甘味を上顎で感じて、上顎にも味を感知する機能を感じる。
舌の全面に、ぬるりと広がった感触に、胸が高まる。
ああこれはなんだろう。
懐かしい、記憶の底に眠っていた時間が目覚めたのか。
おぼろげながら、母が自分の歯で咀嚼して柔らかくし、離乳期の赤ん坊である私に食べさせていた頃の喜びが、目覚めたような気がする。
次の一口は、やはり舌の上に乗せて優しく押しつぶし、鼻から空気を吸い込んでみる。
目を閉じればそこは、蕎麦畑の真ん中で、白い可憐な花が風に揺れていた。
奈良「玄」にて。