「河豚食わぬ奴には見せな不二(富士)の山」
フグが大好きだった小林一茶はこんな句を残した。
一方、苦手だったという松尾芭蕉は、詠んだ。
「あらなんともなきや きのうは過ぎて ふくと汁」。
落語の河豚鍋話でも知られるように、江戸時代では、リスクの高い食材だった。
でもうまいから、食べてしまう。
ここに出ているふくと汁は、フグの味噌汁である。
アスリートでもあるフグという魚は、アミノ酸の塊であり、油や酸味、甘みなどが極端に少なく、うま味ばかりがつのってくる。
このうま味と味噌汁のうま味が重なり相乗した、フグの味噌仕立ては、たまらない。
神楽坂「山さき」では、このふくと汁を鍋仕立てにする。
東京に雪が降りしきる絶好の鍋日和に、いただいた。
いやあうまい。酒が進む。
最後に餅を入れて、食べるのもい。
さア〆だ。
普通、このうま味たっぶりの汁をご飯にかけて、汁ご飯と行くのだが、今回は雑炊にした。
ご飯を入れて、軽く煮込んでよそう。
食べた一同は、喜色満面となって、しあわせな笑顔を浮かべた。
しかし。
これで終わるようでは、鍋奉行協会会長としての名折れである。
白子の端切をいただき、鍋に投入後、よくよく混ぜてさらに煮込む。
フグの味噌仕立ての白子溶き雑炊。
これはいけませぬ。
食べた瞬間、「ごめんなさい」と言いたくなった。
白子のいやらしいうまみをまとったご飯は、禁断という風情を膨らまして、人間を陥落させるのだった