「よく障子紙に貼って、店内で乾かしとる店があるけど、あれはうまくないけん。生臭さが抜けん」。
博多「畑瀬」のひれ酒は、木の笊にのせて天日に当てるのだという。
しっかり干せたら、それを一年置く。
「天日に当てる。そして一年おかんと、完全に臭さは抜けん」。
そう主人は言われた。
そうしてようやく出来たヒレが、熱燗の中に沈められていた。
そのひれ酒は、よく見かけるヒレ酒のような焦げ香が、微塵もない。
あるのは旨味だけである。
誤解を恐れずに言えば、高級味の素をいれたような旨味だけが酒の甘さと出会って、なんともおいしい。
しかしそれは味の素ではないから、旨味が純粋で澄んでいる。
だから酒を、上湯やコンソメのように変えて、我々の心を溶かすのだった。