どどう。

食べ歩き ,

どどう。
一口食べた途端、無限の包容力が吹き抜けた。
それは絹のような暖かく、揺るぎないたくましさを含んでいる。
目を見はるほどの大きい海老芋は、微塵も煮くずれることなく炊かれていた。
包丁目がきりっと際立ちながらも、芯の芯まで同じ柔らかさでつらぬかれ、出汁が染みている。
「今日の海老芋はいい」と、ご主人がいわれるように、筋張った先の細い部分までなめらかで、少しも歯に触ることなく、甘く崩れ、無くなっていく。
ぬめりを出さぬため、水で火加減に細心の注意を払いながら、炊きあげ、一番出汁と薄口だけの地に平行移動させる。
「本当に難しい。うまく炊けるようになるまで10年かかりしましたわ」と、主人はいう。
野菜を活かすということは、そういうことなのだ。
人間が食べやすいように「炊く」とは、そういうことなのだ。
料理を横に広げず、一つの料理を毎年毎年縦に深く、極めていく。
その先に到達する道にしか、大地という宝箱の中で大切に育てられた野菜が生きる道はない。。

「祇園 浜作本店」にて。