ちらしずしの魅力は、その姿にある。
仕事が行き届いたすしダネが、酢飯の上で整然と配された、上品な美しさ。
おいしいちらしずしは優美である。派手に飾った華やかさとは異なる、心にすっと入り込んでくる自然な美しさが宿っている。
それは、散らされたタネそれぞれに意味が込められているからである。
ただ刺身を並べただけでは、ちらしずしとは呼べない。
味の配分、食感の対比、酢飯との調和、彩りなどが、十分に練られているからこそ、心に響くのである。
ではそんなちらしずしがいただけるお店を紹介しよう。
ちらしずしには、タネを細かく切って散らしたばらちらしと、切り身を配したちらしずしの二種類があるが、ばら(吹き寄せ)ちらしでおすすめしたいのは、
「新太郎」である。
もみ海苔を散らした酢飯の上に、干瓢、含め煮にした椎茸、卵焼き、イカ、いくら、穴子、コハダ、エビ、わさび醤油にくぐらせたまぐろや白身魚、貝が、同寸に細かく切られて彩りよく散らされ、上から煮つめをたらし、鯛のおぼろがかけられている。食べるのをためらうような美しさだ。
たまらず箸を入れれば、さまざまな歯触り、甘み、酸味、香りが、口の中で弾け、混ざり合う。
次々に現れ発見する喜び。
宝箱のようなおいしさと酢飯がなじみ合う、これぞちらしずしの醍醐味であろう。
「青木」のちらしは、実に雅やかである。黒い漆椀のふたを取ると、はっと息をのむような絵が現れる。
海苔、細かく切った干瓢や椎茸飴煮、穴子、煮あわび、コハダを散らした酢飯の上にエビのおぼろを敷き詰め、ふっくらと滋味を忍ばせる煮蛤、柔らかなタコの桜煮、エビが配されている。
満開の桜(おぼろ)の下で宴を開いているかのような春の情趣に満ち、吟味され、丹念な江戸前仕事が施されたタネ一つずつの味わいや香りに陶然となる。
蛤やタコなど、一品ごとの味わいをかみ締める喜びと、おぼろの下の渾然となったおいしさの両者が味わえ、なんとも贅沢な気分を運んできてくれる。
「笹鮨」のちらしに漂うのは、渋い美意識。
甘みが引き出された煮いかやほどよく締められたコハダ、味の染みた干瓢、穴子、まぐろの赤身、生イカ、芝エビのすり身入り薄焼玉子。
華やかな色合いではないが、すぐに丼を掻き込みたくなる表情があって、しみじみとうまい。
全体をざっくり混ぜてもよし、一つずつタネの味わいを確かめるのもよし。
さらにはタネで酒を飲み、おぼろや海苔を散らした酢飯でしめるなんて渋い食し方も、おすすめである。