トーストとは、
「薄く切り、両側を軽く焼いた食パン」である。
「簡単ゆえに、料理としての地位が認めてられいない」節がある。
しかし
「なかなかおいしいトーストに巡りあえない」てえ事実もある。
トーストをする理由は、
1,メイラード反応による焦げ色をつけ、食欲を喚起させる。
2,香ばしいにおいで魅了させる。
3,パンに含まれる水分を揮発させる。
4,暖める。
5,4の効果により、バターを溶けやすくさせる。
6,4の効果により、バターやジャムなど、塗ったペーストの
香りが、加熱されて増大する。
7,生の食パンにはない、表面部と中心部の食感の対比を生じ
させる。
8,6の表面部の食感から導く音で聴覚を刺激する。
9,カフェオレ、ココアなどに浸しても、水分吸収率が低く、
パンの威厳が保たれる。
10,上記と同等の理由で、唾液に犯されることなく、軽やか
に口の中を駆け抜ける。
以上が「トースト10の力」として、世に広く知られているメリットである。
林望氏は「イギリスはおいしい」でトーストの真実を発見し、
フランス人は、イギリス人がトーストを良く食べるのは、あまりにも寒いのでバターを溶かす方法を他に思いつかなかったから、と笑う。
トーストを食べたいと思えば、西は築地の「愛養」に出かけ、東は浅草の「アロマ」に出かけよう。
アロマはご主人が一人で切り盛りする喫茶店。
客は皆常連で、初老の男性客が多く、ちょいと世間話なんぞしながらコーヒーを飲んで、帰ってく。
長居はしない。
「ごっそさん」と帰ってく。
運良きゃ著名な噺家なんぞに会えたりもする。
ここんちのトーストがうまいんだね。
バタートースト80円。
パンは、田原町のペリカン製。
焼くのはごらんのトースター。
約2センチ幅のパンをトースターに入れ、一定時間で取り出して裏返し、再び焼く。
これによって焼きムラをなくそうって寸法だ。
焼き上がると、素早くバターを塗り、切って目の前へ。
どうだい、美しいじゃないか。
かじればサクッと音がして、耳はタルトのように軽やかに崩れ、バターの香りが顔を包み、歯は、甘くもっちりとしたパンにめり込んでいく。
9センチ四方に込められたおいしさに、顔は緩み、
「もう一枚下さい」。と頼んでしまう。
生アンズジュースを何度撮ってもピンボケなのは、腕が悪いのでもカメラが悪いのでもなく、魔力である。
お次は、塩、マスタード、少量の マヨネーズを塗って、生タマネギとピクルス挟み、黒胡椒と塩少々を振った、絶妙オニオン トーストを。
ココア色のシャツに茶のネクタイ、チョコレート色のベストと前掛けをして、いつも笑顔を絶やさぬご主人。
こういう質素な料理にこそ、作り手の心根が素直に現れるんだねぇ
浅草「アロマ」
たかがトースト。されどトースト。
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