“かけ”でしたが、面白くて。

食べ歩き ,

「それは一種の“かけ”でもありましたが、やり始めたら面白くて」。


そう言って「etude」の山岸シェフは、目を輝かせた。
しかしそうはいっても、相当苦労されたのではないかと思う。
パリで、日本人がフランス料理店を経営するということだけでも至難なのに、乳製品を一切使わないフランス料理を出そうと試みたのだから。
パンに添えられるバターでさえも、オリーブオイルにカルダモンの香りをつけたものである。
コーヒーにもミルクを添えられないので、豆乳とアーモンドミルクで調整する。
滑らかでコク深いソースにも、様々なうまみを利用し、動物性脂肪分を使わずに作り上げる。
そして乳製品の美味しさで成り立つデセールも、一切使わずにして、夢の時間を作る。


結果店は、圧倒的にフランス人が多く、同席した人の話によれば、以前出会ったマダムは食べ終わるまで、この店が乳製品を使っていないとは、知らなかったという。
乳製品を使わないという個性だけではない。どの料理にもフレンチのエスプリが満ちている。
おそらく時代的には真似する店もできてくるだろう。しかし、そうやすやすとはここまでの完成度は持てないはずである。


ショパンのエチュードが好きだったせいもあるのですが、料理に完成はない。常に上を目指して毎日練習を重ねる。そういう意味で店名をつけました」。
そうシェフが語る店に、ミシュランの星はついていない。
しかしそれこそが、パリの底力である。
そして可愛らしいマダムの選ぶワインも素晴らしかった。
料理の話は、また後で。