その姿は、厳寒の北海道で、ようやく雪(チーズ)の下に芽生え始めた草を見つけた牛が、喜んでいるようでもあった。
「草喰 なかひがし」のジビーフのビフカツである。
周りには、朝摘まれてきた葉っぱ類と蕗の薹の新芽の天ぷらが添えられている。
上にはその脂肪分を補うように、吉田牧場のマジアクリが削り散らされ、周囲に人参のソースと和芥子が流されている。
ビフカツにほんの少しだけ塩をかけ、蕗の薹天ぷらや葉っぱ類と抱き合わせ、口に運んだ。
衣の香ばしさが広がり、歯が肉に入っていく。
水分を抜きすぎないよう慎重に揚げられた、ジビーフの猛々くも穏やかな滋味が広がる。
そこへ草の青い香りとほのかな苦みが重なる。
その瞬間、牛になった。
大草原で気ままに草を食む、牛になった。
こんなに草の香りや苦味と合う、牛肉を他に知らない。
考えてみれば草だけを食べてきた牛には、しごく自然なことで、牛を食らうということは、その餌を食べるということなのである。
このビフカツは肉食ではない。
これもまた草喰である。
この後に続く、白いご飯という主役を引き立てる草喰なのだ。
なかひがしの全料理は別項にて解説