きっかけはとんかつだった。
それまで皆と同じように、ソースをかつの全面にじゃばじゃばかけていた。ある日、カツというのは、衣のサクサクとした食感が魅力なのに、これでは台無しにしているのではないかと疑問を持ったのである。
そこで二切れずつソースをかけて見た。おお、最後までサクサク感が生きてうまいではないか。ではさらに一切れずつかけようと、進化を遂げ、これで完成したかのように思われた。
しかしある日また魔が差した。とんかつにソースをかけないで食べたら、どんな味なのだろうと考えたのである。そこで好きだったとんかつ屋さんでなにもかけずに食べて見た。
愕然とした。まずかったのである。そうか。とんかつとは。少々劣る肉でも油でも、衣の食感と香り、ソースの風味があれば、おいしく食べられてしまう。そんな料理だったのか。
だがとんかつは、豚肉をよりおいしく食べる料理である。ならばソースをかける前に素のまま食べてみよう。そしてその後どう食べるかという戦略を練って豚肉に敬意を払おう。そのままか、塩かソースか。あるいは辛子醤油か。
とんかつのタイプ、豚肉の実力、衣の具合、油の香りによって作戦を立てよう。だから本編では、とんかつの食べ方も記してあるが、それがベストではない。それぞれのとんかつの性質を考えて、方法を選ばなくてはいけない。
そうこの本は、「こうして食べろ」という本ではない。ましてや、「こうして作るのが最高の方法」という本でもない。
「こういう方法で作ってみたり、こういう方法で食べてもおいしいよ。でももっとおいしい方法があったら教えてね」と、投げかけちゃう本なのである。