大根、豆腐、こんにゃく。
おでんなら、まずこの三品は譲れない。
次に玉子、ちくわぶ、ジャガイモかな。
今朝のようにぐっと冷え込んだ日には、無性におでんが食べたくなる。
そういう時は、そっと口元で「おでん」と囁いてやる。
するとおでん愛が急上昇して、いてもたってもいられなくなる。
頭の中は、タネが仲睦まじくひしめき合うおでん鍋の光景で埋めつくされ、頭のてっぺんから湯気が立つ。
おでんは、食べる銭湯である。
タネとの気の置けない裸の触れ合いが、体と心を、のほほんと温めてくれる。
食べたくなったからといっても、安直にコンビニに走ったりはしない。
おでんは、やはりおでん屋で食べたい。
だからそれまで、おでんの匂いを嗅がないために、コンビニにも行かない。
大根に箸が吸い込まれていく。
持てばずっしりと重く、ゆっくりと噛めば、大根の滋味とおでんつゆが抱き合って、口の中を満たしていく。
大根は今、ようやく目覚めたのだ。
こんにゃくは辛子が効いて、「ちくしょうめ」と涙目になりながら、食べていく。
豆腐は、辛子ではなく黒七味がいいな。
豆腐の柔肌が唇に優しく触れ、舌の上に乗って、ほのかな甘い香りが鼻に抜けていく。
そんな情景に辛子はきつい。
黒七味のアクセントがいいのだな。
変わり種では、シウマイというのもいい。
煮込まれ蒸されたシウマイは、口に入れた瞬間にとろとろに溶けていく。
そのだらしなさがいじらしい。
もちろん今の時期なら、白子もいいだろうし、クリッと歯の間で弾むタコもいい。
ああ後それからね。
おでん屋では、できれば盛り合わせは頼まない。
盛り合わせても二品が限度、冷えちゃうからね
そしてお相手は、燗酒と法律で決まっているので、これ以外を飲むのはご法度である。
「おでんに燗酒」。これこそが冬の幸せなり。
写真は、銀座「四季のおでん」