軽井沢「かぎもとや本店」

おいしいの理由。

食べ歩き ,

論理的にはダメでも、私は好きということが世の中にはままある。
そばは二八より少し小麦粉含有量が多いのか、ねっちりとしている。
蕎麦の香りはない。
平打ちだが、幅は時折バラバラである。
捏ねが甘いのか、蕎麦が切れて、長さが短い。
つけつゆの辛汁は、甘い。
わさびはねりわさびで、ネギは水に晒しておらず、青い部分は、切り離れていずに、繋がっていたりする。
値段は、もり900円、ざる950円、大盛りが350円と、町蕎麦の域を超えた一流蕎麦屋の値段である(海苔代が50円プラスというのは微笑ましい)
そば通なら素通りだろう。
いや通でなくとも、良さは理解できないかもしれない。
全国の有名蕎麦店でいただいてきた僕も、理論的は、真っ当な蕎麦ではないことは、わかっている。
だがいつも一口手繰った瞬間に、「うまいなあ」と、しみじみと思う。
軽井沢にある蕎麦屋は、全部行った。
ついでに小諸も追分も、全部行った。
だがここだけは、軽井沢に来ると、一度は食べないと気が済まない。
小学生の頃から食べていて、味が染み付いていることもあるのだろう。
今日も「うまいなあ、うまいなあ」と、心の中で呟きながら「大ざる」を食べ終えた。
このそばは、江戸風に蕎麦の下三分の一をつけてたぐっても美味しくない。
適度に薄く、適度に甘いつゆにどぶんとつけて手繰らなくではいけない。
だからつゆがなくなるのが早い。
追いつゆをするので、薬味は必ずおかわりする。
ちなみに薬味は、最初に全部入れない。
粉わさびが効きすぎて、甘いつゆが台無しになってしまうからである。
わさびは3回に分け、大根おろしとネギは2回に分けて入れる。
辛くなったら追いつゆをする。
今回はざるだったが、ここのそばは海苔の風味が生きないので、もりがおすすめである。
蕎麦湯を入れて一段落。
ああ美味しかったと、考えてみれば、このつゆにすりおろしたわさびは合わない。
また、細打ちも合わない。
さらしたねぎも合わない。
要はバランスなのだなと。