<駅弁勝負> 第53番     いくらとんかつが

駅弁 ,

いくらとんかつが好きでも、弁当では選ばない。
揚げ物は、冷えると別物になってしまうからである。
しかしソースまみれのカツは違う。
ソースにまみれてまみれて、冷えて冷えて、別の美味しさが生まれちゃう。
敦賀駅の売店にそれはあった。
「ソースカツ丼弁当」である。
750円。結構高いが買っちゃうぞ。
開けると、ソースカツと紅生姜にご飯、以上。
潔い。
ソースにまみれ、しなしなとなった衣に歯を当てると、肉が現れた。
水分が流失し、旨みも香りも失くし、ぽそっと硬い、昔は豚肉であった痕跡をわずかに残す肉である。
でも予想通りだもんね。
この味気なさとソースの濃い甘辛さの対比がわびしくて、いいのだよ。
カツや肉を食べているというより、ソースを食べているという逆転感覚がいいのだよ。
なにより自分の味覚が貶められている状況が、たまらない。
冷たいご飯にもソースが染みている。
僕はここに紅生姜を混ぜ混ぜして食べてみた。
ああ。ソース冷や飯に紅生姜の辛酸っぱさが、健気にアクセントする。
下品の品格は、ここに極まった。