湯豆腐が恋しい季節になった。
昔東京に雪が降った瞬間に豆腐を買いに行き、湯豆腐をしたことを思い出した。
湯豆腐を囲む人は、無口な人がいい。
それぞれが湯豆腐へ人生の思いを移しながら黙々と食べ、酒を飲む。
そうありたい。
本日「辻留」のお軸は、久保田万太郎自らが記した湯豆腐のうただった。
炉の冬の とどのつまりは
湯豆腐の
あわれ火かげん うきさかげん
月はかくれてあめとなり
あめまた雪となりしかな
しょせん この世は ひとりなり
泣くも笑うふも
泣くも笑うふも ひとりなり
象徴的でありながら抽象的でもある久保田万太郎のうたに、人生の悲哀と豆腐の温かさが染みていた。