〜150円の贅沢〜

食べ歩き ,

〜150円の贅沢〜
河粉(ハーフェン)が好きである。
幅広い麺で、細い麺より唇を舐め回す感じが、たまらない。
幅広い麺に、味をたっぷりと絡ませて口に登ってくる、律儀な姿勢がたまらない。
それゆえに、きしめんも、パッパルデッレも、クイティアオも、ひもかわも好きである。
幅広で、どこか雑な感じとサービス精神が入り混じったような、そんな立ち位置もいい。
ところが細い麺と比べ、扱いが面倒なのか、食べる人が少ないのか、圧倒的少数派となっている。
そんな世の中で、有楽町「慶楽」は、いつも河粉に出会える希少な店である。
開高健が愛した店としても有名だが、もう僕も40年くらい通っている。
今日も河粉の豚肉焼きそばを頼む。
さらに紅腐乳150円を追加した。
ふふ、紅腐乳と河粉が来たぞ。
最初は素のままでたべる。
幅広で餡を大量に受け止めるため、箸が重い。
そこが「食べる」という意識を、深くする。
次に、紅腐乳をまぶして食べる。
ああ、途端に焼きそばが一筋縄でいかなくなった。
変態となった。
熟れた塩気が、焼きそばに艶と癖を与えて、酒が飲みたくなる。
次に、酢に赤唐辛子を漬け込んだ、この店独自の辛酢をかける。
辛い。酸っぱい。食欲に拍車がかかる。
箸持つ手が止まらない。
次に、紅腐乳を辛酢で溶き、焼きそばにかける。まぶす。
辛い。酸っぱい。しょっぱい。
だがどれもただの辛い。酸っぱい。しょっぱいではなく、練れているので、味わいに深みが刺す。
こうして通常の焼きそばを、三種のしぶとい味覚でいたぶる。
そのいじめに喜びを感じながら、自分の舌や口腔内は、辛さに痛めつけられる。
この相手を殴りながら殴り返されているような、SとMが入り混じる背徳感がいい。
そんな体験を 150円で体験できる。
これこそがコスパというのではないだろうか。
でも、かなりクセがあるので、良い子は決して真似してはいけません。

 

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