〜僕のGOOD EATシリーズ〜<愛すべき食を未来に託す編>

日記 ,

〜僕のGOOD EATシリーズ〜<愛すべき食を未来に託す編>
「全盛期の五分の1でしょうか」。
高知県土佐清水市、ジョン万次郎の出身地で、百年間宗田節作りを続けている「新谷商店」の四代目は、静かに言われた。
マガツオから作られる本節や亀節に対し、宗田節は、ソウダガツオという、マガツオより小さい魚から作られる。
本節や亀節よりアミノ酸が多いといわれ、そばやうどんの出汁として使われてきた。
だが年々ソウダガツオは減少し、高騰していく。
「去年は、私の記憶にある中でも最低でした」というほどの不漁だったという。
不漁に加え、平均年齢が70歳という、漁師の高齢化も重なり、漁獲量は減っている。
さらに、ちょうど天日干ししたカツオを、選り分ける作業をしているところを見たが、みなさん70才以上の熟練お婆さんである。
材料の減少や高齢化に加え、宗田節の需要も激減している。
このままでは間違いなく、宗田節という日本固有の食文化は消えていく。
宗田節だけでは、やってはいけない。
新谷さんは、粉末出汁や宗田節うどん、出汁醤油専用宗田節、そして全体の二割くらいしかできないというヒット商品、長極薄の卵かけ御飯用鰹節も考え出した。
新谷さんが考案し、特別に薄削の機械も特注して完成したという、「極薄の卵かけ御飯用鰹節」を試してみた。
しかしこれを食べるには、1週間待たなければならない。
まず醤油に、細い出汁醤油専用宗田節を漬け込む。
そして1週間待つと、宗田節から滲み出た旨味が醤油に溶け込み、なんともふくよかな味わいとなる。
まず熱々ご飯に、長極薄鰹節をかけた。
かき込む。
ああ。
もうこれだけで幸せである。
ご飯の甘さの後ろから鰹節の香ばしさが追いかけて、さらにご飯が恋しくなる。
次に1週間宗田節を漬け込んだ醤油を卵と混ぜ、ご飯にかけ、さらに宗田節をかけた。
これはいけません。
一口食べた途端に笑い出す。
黄身の甘み、ご飯の甘みに豊かな醤油の旨味が抱き合い、宗田節の香りが誘惑する。
どんなTKGもかなわぬ、堂々たる品格がある。
食べながら、宗田節をともに作り続けるチャーミングな奥様と、実直を絵に描いたような新谷さんの二人を、思いやった。
胸の内が、熱い。
淡々と語る新谷さんの目の奥に燃える、伝統を受け継ぐ者の覚悟と責任を感じて、熱くなった。