「petale de Sakura」
桜の花びらと名付けられた小さなフランス料理店が、横浜市の郊外にある。
飲食店が「養老乃瀧」しかない弥生台にあるが、丘陵に建てられたそのレストランは、いつも満席だという。
「3年間でクルマの走行距離が10万キロを超えてしまいました」。
シェフの難波秀行さんはそう言って、穏やかに笑われた。
ダイコン、柚子、ブロッコリー、山ワサビ、玄米、ヤーコン、菊芋、ネギ、穴子、米麹みそ、牛肉、豚肉、卵、豆腐、唐辛子、牛乳、マダイなど、料理に使われている食材の90%以上が、近隣の生産者の手によるという。
3年間かけて探し当てた、農家や漁師から仕入れている。
たとえば卵は、良質の餌をやり、無理やり生ませないので、味がきれいで濃い。
「でもたくさんできないので、使えない日もあるんです」。
フランス料理店なら困ることだろうに、嬉しそうに語る。
「うちのフォンは、卵を産み終えた老鶏でとっています」。
一つ一つの野菜や生産者のことを語る言葉が、優しい。
我が子を褒めるかのような、愛情が滲み出る。
「近隣の生産物だけで料理を作る。修行したブルターニュのレストランは、それが基本理念でした。だから生産者たちとの信頼関係ができていて、朝に勝手口を開けると、近所の農家さんたちが置いていった野菜がどっさりと置いてあるんです。そんなレストランでした」。
難波シェフは、Patrick Jeffroyシェフ率いる二つ星レストラン、「l’Hotel de Carantec」で修行し、その後「ルドワイヤン」を経て帰国し、「ミクニ」に入り、「ミクニヨコハマ」の料理長を務められた。
三國氏から信頼され、自らの跡を継がせたいともまで考えられていたというが、どうしてもこうしたレストランがやりたくて、独立したのだという。
料理人でもある奥様と二人で厨房に立たれ、朝獲れた野菜や魚と話し合い、日々料理を作る。
客席に大きく開けられた窓には、空と桜の木が広がっている。
レストランの入り口付近には、ずらりと生産者さんたちの顔写真が並んでいる。
そのすべての人が、心から、屈託なく笑われているのだった。
「petale de Sakura」
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