富山 ひまわり食堂

「幻魚」か「下の下」か?

食べ歩き ,

人間というのは、つくづく強欲であると思う。
幻魚「げんげ」は、昔は「下の下」と蔑まれていたことからなまって「げんげ」と呼ばれたという。
そのウーパールーパーのようなのっぺりした姿は奇妙であり、深海魚ゆえに足が速く、すぐ腐ってしまう。
タダ同然で取引され、漁師や地元の人しか食べていなかったと聞く。
しかし身は淡い品のある甘みがあり、かつコラーゲンたっぷりでうまい。
名物はげんげ汁である。
現代になって流通技術や保冷技術が発達したことから流通に乗るようになり、根も上がり、「下の下」から「幻魚」となっていった。
「ひまわり食堂」の田中シェフは、小さいことからげんげ汁をたくさん食べていたのだろう。
げんげ汁を再構築して、イタリア料理に仕立てた。
簡単に取れるコラーゲンは、クールブイヨンで茹でて叩き、刻んで菜の花と合わせソースにした。
その上に加熱したげんげを乗せ、刻んだ三つ葉の茎を乗せる。
げんげはふわりと崩れ、優しい甘みを伸ばす。
そしてコラーゲンのソースはぬるんとして、純な甘みがある。
いや単純な味覚として甘みではないのかもしれない。
本能が、コラーゲンという栄養素に接して感じ取る感覚が、甘みとして脳が捉えているのかもしれない。
そんな不思議がある。
そしてシェフが密かに忍ばせた梅干しの酸味とうま味が、その不思議を暖かく見守るような風情があり、それがおばあちゃんの作ったげんげ汁のありがたみに通じる。
これを食べながら、セイズファームのアルバリーニョをいただけば、途端に海風が吹いて、富山湾に連れて行かれるのだった。
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