「カランコロン」

食べ歩き ,

「カランコロン」。
羊の首鈴の音で目が覚めた。
ペイバスク、アルデュードの田舎宿「Hôtel Saint Sylvestre」である。
ここは地元の人が最も行く食堂でもあるらしい。
普段家でも食べている郷土食の、ガルビュールやピペラードをわざわざここまできて食べるというだけあって、昼、夜ともに充実した食事だった。
朝は、軽やかなクロワッサンとスライスしたバゲット状ながら、グリッシーニかラスクのようなカリカリとパン、プラムをいただく。
そしてピエールオテイザへ。
経営者のママ(つまり会長)が出迎えてくれ、いきなり「飲むか?」と聞く。
「ウイッ」と答えれば、テラスで自家製アップルジュースとサラミ、そしてリモンチェッロのような、自家製食前酒をご馳走になる。
そして社長と山上の放豚地へ。
登山を覚悟していたが、上まで車で連れて行ってもらう。
車道に豚がのんびり散歩している。
AOCのキントア豚は、ある程度の標高で育てること、一致の広さに何頭まで買わなくてはいけないなど厳密に決まっている。
20近い放豚地を17人が交代で見ているというから、相当な労力であろう。
頂上に近い放豚地は、出荷前の豚がのんびりと暮らしている。
「豚には二つの大きな仕事がある。1つは食べること。そしてもう一つは寝ること」と、社長が言う。
苔、木ノ実、トマト、ピモンなどをよく食べるらしい。
そのピモンがたわわになっていたので、千切って頂戴した。
甘い。爽やかに甘い。
パシュッとみずみずしく果皮が弾けると。青々しい香りが広がり、その後からほのかな甘さが広がっていく。旨味、アミノ酸成分もある。
これがバスク料理の美味しさに繋がって行くのだなあ。
放豚地のあとは工場を見学させてもらい、その徹底管理と巨大さに感動したあとは、食事である。
会長・社長一家と食事をした。
白アスパラとピモン。チェリーの酢漬け、サラダ、そして生ハムである。
豚は、キントアのアルデュード豚があるが、見てわかるようにキントアは肉の赤と白が明確で、表面がしっとりと脂で輝いている。
食べればしなやかで、塩分がなじんで旨味が深い。
味わいが、舌を通じて体の中に染み渡っていくような感覚があって、いつまでも噛んでいたくなる豚である。
続いて、肩ローストロースのグリルが登場した。
見てわかる通り、色が赤黒い。
毎日山登りをしているせいで、筋肉がよく発達し、遠くからやってくる狼から逃れるほど足も早いという。
キントアは、アスリート豚なのであった。
口に運べば、日本の優しい豚とは違う、凛々しさがある。
脂どけはいいのだが、肉は噛みしめる喜びがあり、噛むほどに滋味が膨らんでいく。
これをとんかつにしたら、うまいだろうなあ。
ワインは地ワイン、やはりAOCでタナーとカバルネフランなどで作られる「IROULEGUY」のGORI(バスク語で赤のこと)で、その柔らかな味わいが豚に合う。
日本には輸入されていないようだが、合田さんどうでしょう。
「まだ飲む?」勧め上手のマダムが聞いてきて、食後酒もいただく。
そしてデザートはフラン。
つまりプリンである。これがまた優しく、軽やかで、するすると入るのだった。
食後はマダム(会長)が自ら運転し、レーサー並みの速度で山道を駆け抜けて、マスの養殖場に案内される。
この鱒もまた、AOCである。
ここアルデュードは、キントア、先のワイン、ピーマン、フロマージュ、鱒と小さい村ながらも5つのAOCを持つ、他にはない土地なのである。
BANKAの養殖場は、村を流れる急流のうち最もミネラルが多いとされる土地に作られ、川から引き上げた川水が、常に流れて、下流に流されるシステムとなっているので、水が綺麗で、生育がいいのだという。

昨日の昼食べた鱒料理の洗練を思い出し、イクラもいただいて帰る。
その後、「IROULEGUY」の直売所でワインの試飲を散々し、ほろ酔いでオテイザに帰ると、ピエール・オテイザさん本人が待っていて、座るなり「バスクのビール飲むか?」
ペイバスクの人の挨拶なのか。
もちろんいただいて、いろいろお話しさせていただき、最後はヤァーをし、東京に来たら、とんかつを連れていくことを約束し、別れた。
いやあ充実した一日でした。
会長・社長・オテイザさん、ご家族の方、そして引き合わせてくれ、ビルバオまで延々3時間送ってくれた、大作さん、ありがとうございました。

Psで
ビルバオでは夜10時から近くのバル la olla delaplazanuevaで軽く食べ飲んで、長い一日を締めくくる。