「いやん、やめて」と

食べ歩き ,

「いやん、やめて」と、耳元で囁きながら
「齧って舐めて、しゃぶって、わたしを食べつくして」と、鳩が言う。
特別飼育された乳鳩を、特製のタレに漬けながらゆっくりと火を通しておいたものを、湧かせた滷水に沈めて火を止めたものだという。
醤油鳩か豉油皇乳鴿か。もうそんなことはどうでもいい。
肉に歯を立て骨から引きちぎろうとすると、骨から離れたくないと、肉がつぅーと伸びて口に転がり込む。
優しく、いたいけで、しなやかな甘みが広がって、ふふふと笑いだす。
火が通されているのに、生の肉に齧りついたようなコーフンがあって、いけないことをしている感覚が積もっていく。
腿や胸のむっちりもいいが、手羽先の先端の肉が少ししかついていない部位も、わずかな肉から味が湧き出て、体内に眠りし野生が目覚めだす。
頭を噛めばちゅるちゅると、甘く行儀のいい脳が舌にのり、もうやめてと叫んじゃう。
フランス料理の鳩料理の、血を感じさせる味わいとは違う、別の官能がある。
そして今度は鶏と来た。こいつも日本で特別飼育された龍崗鶏を使った貴姫鶏である。
ああ、なんと色っぽい。
手で持って齧りつくと、歯が肉に優しく抱かれて、滋味がじゅるっと滲み出す。
もしかすると鶏は、まだ加熱されたことに気づいてないのかもしれない。
そう思わされる、たおやかさがあって、肉がどこまでも自由なのだ。
これだけではないい。
日本では珍しい、炭火でローストされたアヒルも叉焼も、アヒルの舌も羊の舌も皮付き豚ばら肉の焼き物も素晴らしい。
明日開店の、青山キラー通り「楽記」。
もう香港に、鏞記にいかなくてもいい。

 

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