〈日本農業の未来〉
「自然薯って自然の芋と書くんですけど、農薬を使わない自然薯はないんです」。
全国で唯一、無農薬自然薯を作る佐々木さんは、そう言われた。
農薬を撒かないと、すぐ腐ってしまい、できたとしても大きくならないため、種芋を植えるときには、魚も死んでしまうような強力な毒性農薬を散布した土で育てるのだという。
それではいけない。
唐津は4〜500年前から自然薯の名産地として知られ、夏目漱石の坊ちゃんにも数カ所登場し、古くは殿様への献上品だった。
その文化を無農薬で再現しよう。
思いを刻み、祖父から受け継いだ畑で作り始めた。
だが11年過ぎても、まったくうまく育たない。
結婚もしたばかりだったので、祖父から「もうやめろ。自分だけならいいが、他人の人生も巻き込むつもりか」と言われて、諦めかけた。
だが「もう1年だけやらせてください」と、粘ったという。
その後すぐ、畑の前の崖が崩れ落ちて、天然の自然薯が現れた。
「なぜ同じ土なのにできないのかと考え、手をかけないことにしたんです」。
天啓だったのだろう。その後はうまく育つようになっていった。
手をかけないと言っても、農薬自然薯より数倍手をかけている。
苦労は計り知れないに違いない。
しかし佐々木さんの爽やかな笑顔にて、ストレスなく、すくすくと育った自然薯は、純白でエグミも雑味もなく、上品な甘みをしたたらすのである。