ピッツァは生きている。

食べ歩き , 寄稿記事 ,

自家製アンチョビのロマーナ

ピッツァは生きている。

そのことを知ったのは、「ベッラ・ナポリ」だった。

この店に初めて出かけたとき、最初に食べた「マリナーラ」と、三十分後に食べた「マルゲリータ」の食感に違うことに気づいたのだ。 わずかながら、「マルゲリータ」の方が生地に弾力があって、もっちりと口の中で弾む。

帰り際にその感想を伝えると、 「ええ、今日は夕方に雨が降って予想以上に外気が下がったので、開店に合わせていた生地の発酵がが、微妙に遅れたようです」。

そう答えたのは、白と紺のボーダーシャツという出で立ちで、パーラ(長い柄のへら)片手に黄色と黒の釜の前でたたずむ、ご主人兼ピッツァ職人の池田哲也さんだった。

その口調は、申しわけなさそうながら、うれしそうでもある。

ピッツァを生き物として認めてくれてありがとうございます、といいたげな口調だった。

ピッツァへの敬意が、ひしひしと伝わる表情が浮かんでいた。

そんな池田さんの作るピッツァは、命である縁が、香ばしい焼きコゲを伴ってふっくらと膨れ、かみ締めていくと粉の風味がじんわりとにじみ出る。

バランスのよい「マリナーラ」も、漬け込んだヒシコイワシの香りと塩気、オレガノとガーリックオイルの香りがピタリと調和した「ロマーナ」もうまし。

さらにはコラムの精神からは外れるが、新鮮な乳の香りと濃い甘みに目を丸くする、岡山吉田牧場のモッツァレラを使った「コンヨシダ」二千円も是非試されたい。

熱情を込めて焼かれる、一枚一枚の異なるピッツァ。わたしはこの店で、ピッツァへの愛着が深まっていくのを感じるのである。

 

「自家製アンチョビのロマーナ」 千六百円

「ベッラ・ナポリ」イル・ペンティート

江東区高橋9-3

5600-8986

18~22

月曜

森下駅より徒歩五分