熊肉の魅力は、脂にある。
白く、初雪のような汚れなき、脂にある。
しかし冬眠から目覚めた熊は、脂が少ない。
赤身肉をいかに生かすか?
その答えを、谷口シェフは出した。
表面だけを薪火で炙って薄く切り、あざみや万願寺唐辛子、かぼちゃの種、野草の刺草と蜂蜜と合わせたのである。
食べればそこには、五味がうごめいていた。
熊肉の純粋な滋味に、味が重なっていく。
あざみの苦味と酸味、蜂蜜の甘み、微量入れられたシェリーヴィネガーの酸味とうまみ、トマトのうまみと酸味、全体をまとめる軽い塩味。
それぞれに意味があり、最適な量によって、丸みを帯びている。
そこにあざみと刺草の、青い香りが刺す。
丸みと野生の香りに包まれながら、凛々しい赤身肉が、自然へと戻っていく。
そうして僕らは、奥深い山の中へと連れて行かれるのだった。