初鰹である

食べ歩き ,

初鰹である。
渋谷 「かつお食堂」へ初鰹(初来店)である。
カツオ頭にまとめた髪に、きりりとねじり鉢巻をしたカツオちゃんか一人で切りもる食堂は、朝8時過ぎに訪れた。
出来ますものは、削りたてかつお節かけご飯の定食のみである。
毎晩クラブ通いをしていたカツオちゃんが、実家に帰った時に、祖母がカツオ削りする姿を見て、真の美しさとは心がきれいなことだと気づいたという。
それからカツオな日々を送って5年目に、カツオ食堂を作った。
注文すると、ごはんを装い、鰹節を削ってご飯の上にこんもりとのせる。
熱々ご飯の上で、かつお節が身悶え、踊る。
ああ、愛おしい。
香ばしさが顔を包んで、幸せが体の奥底からせり上がってくる。
そのまま食べれば、柔らかなうまみが、ごはんを押し進め、醸して付けたカビの、かすかな品のある酸味が、後押しをする。
もう、塩もカツオ醤油もいらない。
素のままで、熱々ご飯をワシワシと掻き込んでしまう。
途中で黄身を落としてもらい、塩ガツオかけた後、追いがつおをしてもらった。
もうやめて。
「カツオに対する感謝をさらに感じるため、来月に日戻りのカツオ船に乗せてもらえることになりました」
カツオちゃんが、嬉しそうに笑う。
「鰹節を削るときはイライラしててはいけない。雑念が入ってもいけない。それが同じ鰹節でも味に影響してしまうんです。だから私は、開店前にプリンとか甘いものといった好きなものを食べて、自分をにこやかにさせます」。
「今月は、高知県土佐市宇佐の村田さんの鰹節です。来月は、鹿児島県枕崎の一本釣りの希少な鰹節を使います」。
まいった。こりゃあ戻りガツオするしかないな。