よく一番好きな寿司屋はどこですかと聞かれるけど、大抵は悩みながら、応えは出さない。
だがもしかするとこの店かもしれない。
なんたって純朴なご主人がいい。
「この間築地の帰りに本を読んでいて、池袋過ぎて要町まで行ってしまいました。戻ろうと思ったらすごいラッシュ。魚入れた荷物で乗ったら迷惑だと思って、そこから歩いて帰ってきました」。なんて話し聞くとね。
そりゃあ都内の一流にはかなわいないけど、そんな野暮言う人は来ないよ。
刺身つまんで、アン肝に穴子のつくだ煮や貝をあぶって酒飲んで、ひょいと海老味噌を出してくれるなんざ、憎いねえ。
種も上等、春鯖なんて、脂がのってないぶん香りが爽やかでうまかったね。
握りの姿も端正だ。
余計なもんがなくて、すっと座っている。
今夜の客は僕一人、よもやま話しながらつまんで4本ほど飲んで、握りを10カンほど握ってもらって、お勘定は1万円。
くう、泣かせるじゃありませんか
そしてこちらもご近所。
還暦の会で「60になったので、握りを何食べたか覚えてないほど、つまみで飲み過ぎません」と誓ったけど、この店では絶対に無理。
なにしろ
①「握り食べたくなったら言ってくださいね。そうでないと永遠につまみ出しますから(笑)」というご主人。
②マコガレイもホタテも仕込みをしてない。客の目の前でさばくんだから
③そしてこのラインナップ どれから行きますか?なんて並べられたら困っちゃう。全部行きますというしかないでしょうが
④ほうら悦凱陣の軍団だあ。
ということで、握りを食べたどうかの記憶さえもなく、日本酒攻めで沈没したのでありますが、
これで1万4千円は、ありえません。
一番好きな寿司屋はこの店かもしれない
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