茶碗は唇に吸いつき、一つになった。

日記 ,

ほたっ。

茶碗は唇に吸いつき、一つになった。
美しい曲線が唇の曲線と同化し、抱き合う。
茶を飲もうとしたその瞬間に、体と一つになり、心と一つになる。
いきなり女性から口づけされた時の、ときめきが訪れる。
しかしその後は、なにごともなかったかのように、唇と別れを告げる。
すうっと口から離れ、切なさを残しながら机に戻っていく。
持てば、固い磁器なのに、柔らかなものを持った時と同じ、温かい触感がある。
人間の智慧と技によって生み出されているのに、それは地の彼方まで自然なのである。
高麗庵清六窯 故中村清六作の茶碗。
器としての機能美に、命が宿っていた。
名人は常々言っておられたという。
「仕事は心でやりなさい。一生懸命に作れば、器から語ってくれる」。