駅そばから卒業できない。
新しい土地へ行って駅そばを見つけ、気がつくと店に入っている。
とカッコつけたものの、本当は無意識ではなく、「これから食べに行くのだからやめた方がいいよ」という理性と、「駅そばなんてオヤツだよね」という誘惑の狭間で散々悩んだ挙句、入るのである。
初めての弘前駅でも、昼飯前に入ってしまった。
「幻の津軽そば 夏限定」に惹かれて入ってしまった。
「幻の」や「限定」に躍らされたわけではない。
「幻の」が、どれだけ「幻の」なのか、確かめたかったのである。
それにしても高価ではないか
ふつうのかけそばでも350円と高いのに、「幻の」は、480円もする。
「幻のメカブそば」を頼んだので、610円もした。
もはや「幻の」は、駅そばクラスではない。
「幻のは、なんで幻なんですか?」と、おばさんに聞くと、「そば粉9割なのよ。作るのに3日かかるの。ほら普通のそばはもっと白いでしょ」と、普通の麺と並べて見せてくれた。
親切である。
すぐにでた。「幻の」はすぐに出された。
だが僕の鈍感な五感では、そば粉9割の気配は感じられない。
小麦粉多量による駅そば特有のねちゃねちゃ感はないが(それが駅そばの魅力だとも言える)、シコシコというより麺の歯切れがいい。
歯切れがいいのですぐにちぎれ、短い麺が残って食べづらい。
ついでに言うなら、関係はないが、めかぶの質は高い。
ついにどこが「幻の」なのかは、発見できなかった。
でも職業上聞かねばならない。
「おいしかったです。この三日かけると言うのは、なにに三日かけるのですか?」
おばさん、じっと僕をみて言った。
「わからね」。
そうか。わからないから「幻の」なのである。
世の摂理である。
これだから、駅そばはからは卒業ができない。