<シリーズ 食べる人>番外編
鮮やかなオレンジ色のロングスカートに白いシャツを着た、色白の美人だった。
おそらく25歳くらいだろうか。
23時。 きっと飲んできたのだろう、白い頬に紅がさしている。
日曜の夜なのに、明日から仕事があるのに飲んでしまった。
その反省が、虚ろな目に浮かんでいる。
夜の総武線で、みんながスマホと会話しているのに、彼女だけは自分と会話していた。
急に、意を決したようにヴィトンのバックの中から取り出しのは、リポビタンDだった。
リポビタンDスーパーでもゴールドでもない、普通のリポビタンDである。
キャップを緩め一口飲む。
少しずつ飲む。
(きっと10ccくらいだな)
一口飲むたびに中空を見上げ、かすかなため息をして、口なめずりをする。
甘い液体の痕跡を、唇に少しも残さないように、口なめずりをする。
10ccだから、10回中空を見上げ、ため息をつき、口なめずりをする。
夜遅くに飲むものではないことは知っている。
でも明日から、仕事を頑張らなくてはいけない。
なんとしても今夜中にタウリン1000mgの補給が必要なのだという決意なのだろう。
出来れば彼女の前に立って、声をかけたかった。
「ファイト一発!」。