山への畏怖が

食べ歩き ,

山への畏怖が、小さな足音を響かせている。
里への敬意が、静かに満ちている。
干した稚鮎を揚げて、二日間煮た鮎の卵をのせ、その煮汁を流し、天然の木耳とハタケシメジ、すだちを添えてある。
煮汁には一切あたりをつけていない。
それなに、うまみが深い。
卵の柔らかな甘みが舌を包み、そこに干し鮎の熟成感が滲んで、甘露の滋味が染みわたる。
しみじみと、しみじみとうまいその汁に、茸の香りと酢橘の酸味が、静かに鳴り響く。
ああ。ため息一つ。
それぞれの命が、舌を喉をいたわるように落ちていく。
ありがたい。 
これが、日本料理なのだ。

徳山鮓