その店は、樹々の緑と空の青に抱かれていた。
山の中腹で、ひっそりとお客さんを待ち構えている。
店に入ると、懐かしいシェフの優しい笑顔が出迎えてくれた。
清々しい陽光が、店内に差し込む。
主菜には、鹿肉を用意していた。
地元の女性猟師3人が獲り、解体した鹿だという。
フライパンとオーブンで焼いた後に、店内の暖炉で仕上げていく。
鹿の背肉とレバー、ハツを盛り合わせる。
ああ、なんと綺麗なのだろう。
鹿肉は、微塵の血臭もなく、滋味がどこまでも澄んでいる。
甘みのある滋養を。そっと舌に落とす。
レバーは甘く、心臓は鉄分を弾く。
「店名のパッパ・ヴェルデは、どうしてつけたのですか?」
そう聞くと、北村シェフは静かに答えた
「修行のため、初めてイタリアに着いた時、パッパ・アル・ポモドーロ(トマト粥)を食べて、ああなんと美味しんだろうと思ったのです。僕もこの地でそんな料理を作りたいと思っています」。
直訳すれば「緑のまんま」だろう。
新宿で出会い、神谷町で開いた店には、何度も訪れた。
シェフの作る、トレンティーノ=アルトアディジェ州の料理は、都会にありながら、山の静寂と汚れのない空気がいつもあった。
今はまさしく、そんな環境に身を置き、自然にさからわず、愛を注ぎながら高みを目指すのだろう。
また来ます。
心を洗いに。
湯河原「パッパ・ヴェルデ」にて









