「神田まつや全メニュー制覇への道」カレーうどんの巻

食べ歩き ,

なんと端正なお姿だろう。

無駄がない。
余白も美しい。
ちなみに奥にうどんが数本顔を出て、多少バランスが崩れているが、あれは僕がひっぱり出したもので、本来のお姿ではない。
いきなり手をつけず、しばし見ていたい、神々しさがある。
これはカレーうどんという料理の性格上、真逆の立ち位置ではないか。
ほとんどの人は、「カレーうどんが食べたいっ」と、空腹から命令されて、カレーうどんを頼む。
「今日はカレーうどんでいいや」と、半ば消去法的で積極性を欠いた状態では注文しない。
「今日の昼は、何としてもカレーうどんだ!」 
もしくはその気がなくとも、品書を見ているうちに、どうしようもなくカレーうどんが食べたくなってくる。
だから運ばれてきたら、直ちに、猛然と挑みかかるのが普通である。

だが「まつや」では、その佇まいに見惚れて、しばし眺め、その後静々と食べ始める。
するとどうだろう。
心が温泉に浸かる包容力が、舌を包み込む。
甘辛く穏やかな江戸風甘汁に、カレーの刺激がいなされて、丸くなっている。
うどんのコシは、14〜5回噛むと無くなっていく柔らかさで、汁の味わいにすうっと馴染んでいる。
短冊に刻んだネギの食感と甘さが、時折アクセントとして弾み、薄切り鶏肉の品のある味わいが、食欲をほんのりとあおる。
そうして人は、このカレーうどんを静かに食べ終えるのであった。
「世界一温厚なカレーうどん」。
僕は密かにそう呼んでいる。