「あれ? 牧元さん?」
追分で初めて行くイタリア料理店で、驚いたように、声をかけられた。
虎ノ門「アッティーボ」でサービスをやられていた、宮部さんである。
彼は、都内でレストランを探していたが、縁あってこの物件を紹介され、気に入って一年半前に始めたのだという。
「マンジャペッシェ」出身の杉本シェフとタッグを組んで、北イタリア地方の料理を中心に展開されている。
前菜がわりに「桃の冷たいパスタ」をいただく。
山梨県の桃と帆立と新玉ねぎを使ったパスタだという。
食べれば、桃の柔らかい甘みと香りに包まれたパスタが、喉を潤す。
夏へのありがたみが、静かに膨らむ。
帆立と新玉ねぎは見当たらないが、陰でそっとうま味を支えている。
その三歩下がった塩梅がいい。
続いてパスタは、「手打ちバヴェッテ 鹿のラグー」をいただいた。
噛み締めれば、鉄分の旨味が滲み出るラグーを、散りばめられた葡萄山椒の刺激がアクセントし、軽やかかつ山の気配を膨らませる。
メインには、「ギタロー軍鶏の炭火焼」をいただく。
胸肉、ささみ、もも肉に、フリソデ、砂肝、レバー、手羽先、サルサヴェルデ、お願いして追加した、「小諸出身、望月さんのフライドポテト」が添えられる。
軍鶏は、しなやかな筋肉から滋味を滴らせ、躍動感がある。
もも肉も胸も素晴らしいが、ささみ肉の香りの高さとたくましさに驚いた。
宮部さんと冗談を交わしながらの、食事時間が楽しい。
さらに、目前に広がる庭を眺め、コルビジュに師事した坂倉準三が、日本で初めて竣工させたという、モダニズムと自然との調和を目指した貴重な一軒で過ごす、かけがえのない時間の幸せがここにはある。
西軽井沢「飯箸邸」にて。