席に座るなり、ビールが飲もうと思った。
一刻も早く、うだる暑さから逃げたかったからである。
しかしメニューを見てやめた。
一品目に「乾坤滋補湯」というスープが描かれているではないか。
猛暑で弱った体を、多くの食材で補ってくれるスープに対し、冷えた喉や舌で迎え撃ちたくない。
そう思って、グッと堪えた。
やがてスープが運ばれる。
ふたをとると、湯気が上がって顔を包む。
乾坤、たくさんのという意味の通り、鶏肉、棗、陳皮 キヌガサダケ、椎茸 枸杞の実他、多くの具材が、透き通った茶色のスープに見え隠れしている。
スープを飲む。
「ああ」。
嗚咽が漏れた。
本能が、瞬間的に滋養を感じ取ったからだろう。
優しく、丸い、それでいて深みのある味わいが、唇を過ぎ、舌を上顎を流れて、喉に落ちていく、
目を閉じれば、それがゆっくりと細胞へ染み渡っていく感覚があって、心が温かくなる。
「ふう」。
今度は充足のため息をひとつ。
暑い夏は、冷たいもので逃げるのもいい。
だが、養分のある熱い液体で癒される感謝に気づく日を過ごしたい。
京都「仁修楼」にて