シェフに会った瞬間、「ああ、ここはおいしい」と、直感した。
体から、おいしいが滲み出ている。
最初のスープからやられた。
ほのかに黄色がかる、白濁したスープは、どこまでも優しい。
まろやかな旨みがあるが、そこに独特の香りが漂っていた。
プリモピアットは、名物のクスクス にした。
羊攻撃である。
何気なく、クズクズだけを食べて、眼を丸くした。
ほのかにうまみのような、甘みのような味が潜んでいて、それが心を柔らかくもみほぐす。
「僕がトレヴィーノで働いていた時に、チュニジア人がいて、彼から教わったやり方で作っているんです」。
クスクスは、普通、湯で蒸していくか、それを先ほどのスープで蒸していくのだという。
それにより、ほんのりとクスクスに味がつく。
そんなクスクスが、先ほどの羊や野菜の煮込みの優しさと共鳴する。
続いて、スパゲッティ・アッラ・プッテラが運ばれた。
一見トマトソースである。
「イタリアの下宿先のマンマに教わったんです。
あまりにも美味しく、なぜレストランにはないかと尋ねたら、これは家庭料理だから出さないのよって教わりました」。
濃い。
トマトソースの味を、親しみやすく濃くした感じである。
卵黄とクラナバダーノを混ぜ合わせ、トマトソースと分離しないよう合わせたものだという。
胡椒なきカルボナーラのトマトソース版といったところか
めをつぶれば、太ったマンマとシェフが、大笑いしながら食べている姿が、浮かんできた。
高崎「アンジェリーノ」にて。