鉄分と鉄分。
それはたとえ、魚と肉であろうと結びつく。
そう考えたシェフの傑作に出会った。
一つは、奥入瀬渓流ホテル「ソノール」の鴨料理である。
青森三戸新郷村で育てた銀の鴨のローストは、サルミソースのような赤黒いソースが敷かれていた。
聞けば、イカゴロ塩辛を使ったソースだという。
鴨とイカの肝に塩辛。
合うわけはない。
頭の中の常識は、そう呟いている。
鴨にソースをたつぶりとからめ、口に運ぶ。
ソースが広がり、鴨肉の鉄分が湧き出でる。
その途端、互いの鉄分に含まれた渋みや酸味が抱き合って、甘みと旨みを膨らまずではないか。
鴨のフォンや赤ワインも使われているのかもしれないが、明らかにイカ肝の気配はあるのに、血のような甘みを感じる。
そう、そこにはサルミソースのような、コーフンがあって、直ちに赤ワインを流し込みたくなるのだった。
秋田「f」では、シェフがカツオの半身を取り出した。
一切れ切って味見する。
次はカツオの料理か。
そう思い見ていると、平造りにし、それをさらに細かく切り始めた。
揚げニンニクに、細かく刻んだオリーブとトマト、イタパセを混ぜた。
新種の鰹のタタキか。
そう思っていると、今度は肉を焼き始めた。
黒毛和牛の内腿だという。
焼き上がると、そのカツオたちを上に乗せた。
カツオと牛肉、 合うはずがない。
また頭の中の常識が答える。
しかし牛肉とカツオを共に食べれば、牛の新たな顔が見える。
牛の鮮烈な血に、カツオの爽やかな血が混ざり合い、鉄分といううまみのテンションが上がる。
つまりコーフンが膨らむのであった。