ソースは生きていた。
桜鯛が放つ皮の香ばしさと、肉体から滲み出る色気をたたえながら、囁いている。
「あなたが主役だけど、私がいて輝くのよ」。
ヴェルモットの香りを漂わせながら、耳元で呟く。
酸は、どこまでも凛々しく深いが、地平線のように自然で丸い。
これこそがフランス料理の艶であり、退廃美であり、エレガントが生まれる瞬間である。
しみじみと思う。
単純に思う。
フランス料理が好きでよかったと。
Filet de Dourade poêlée, sauce vermouth