宴のタイトルを見て、涙した。
「智映ちゃんを偲ぶ蟹会」。
3年前に、若くして旅立たれた天才料理人、北山智映さんのことである。
三国海岸の有名海女さんであり、カリスマサーファーでもある七世美さんとは、智映ちゃんを通じて知り合った。
「マッキーさんに合わせたい人がいるの」
智映ちゃんが身体を悪くされてからは、夏と冬にこちらで療養しながら魚料理を考える家を計画し、いざ動き出そうとした矢先に、急逝されたのである。
七世美さんが「すがも」を作ることで悩んでいた時に、智映ちゃんがアドバイスしたという。
福井県で採れる海藻で、茶と緑の中間色のスガモは、手作業で選別し、板状にして天日で干す。
すると鮮やかな緑色となる。
スガモをどれくらい詰めて干すのが一番おいしいか。
三国海岸では、詰めて作るが、七世美さんは、昔ながらのやり方でいいか、悩んでいた。
隙間を開けて作った時に、智映ちゃんが言ったという。
「これしかない。これがスガモを生かす」。
昨夜はそのスガモを七世美さんが炭火で炙り、マトウダイを巻いて食べる食べ方を提案してくれた。
スガモの深緑に、白き身が抱かれる。
醤油を漬けずに、そのまま食べる。
磯香が香り、その中から魚の甘みが、じっとりと滲み出る。
目をつぶれば、マトウダイは、深き海へと帰っていった。
その味わいは、魚をこよなく愛し、魚の本質を見極めようと、寝る間を惜しんで料理をし続けた、智映ちゃんの真心そのものだった。