久々にじっくりお話をさせていただいた。
若い時は、怖いものは少なかった。
しかし、学ぶということは、知るということは、料理を作り続けるということは、怖さを身につけることなんです。
年を重ねた今は、毎日が怖い。
毎日、揺らいでいる。
だから理論はわかっているが、思いつきで、今までとは違うやり方もすることがあるんです。
その姿、悩んだり、変容したりする生の姿を、若い人たちに見てもらえればと思っています。
僕が本を2冊書いたのも、料理人のサクセスストーリーではない、悩み苦しむ料理人の話を、僕自身が読みたかったからなんです。
斉須シェフの頭の中には、二つの明日しかない。
もっと料理がうまくできるようになる、と願う、明日。
そして、後から来るものたちへ残したいと願う、明日。
「野菜のエチュベは、28歳の時から毎日毎日作っていますけれど、作り終わると、またすぐ作りたくなるんですよ。次は、もっと上手くできるんじゃないかと思ってね」。
そう66歳のシェフは言って、目を子供のように輝かせた。