撃ち抜かれたのは、「雷鳥のパイ」である。
胸、腿、レバー、心臓、脳みそを合わせて、パイに包み焼き、ソース・サルミとソース・アルフェブラという古典的ソースを流してある。
こういう皿におじさんは弱い。
一口食べれば、冬でも高山に留まり生き続ける、雷鳥のしぶとい滋味が体を駆け回る。
それは血潮の味であり、土の味であり、果物の味のようでもあって、掴みきれない混沌の味わいが野生の気高さを加速させ、我々を高揚させる。
そこに輝く、濃密なソースが加わって、色気を醸し、夜を妖しくさせる。
この料理を作ったのが、31歳の高木和也シェフということに、驚かされた。
30歳で独立することを考え、タイプの異なる店で修行を重ねてきた彼は、考えたという。
「質の高い食材に、古典的なソースや料理法を合わせた料理を作りたいのです」。
蛤のナージュ仕立ては、一見現代的な軽い皿に見えるが、丹念に時間をかけたコンソメを使う。
コラーゲンが溶け込んだ、深く丸みのある旨味に、蛤や春野菜の滋味が滲んだ複雑な味わいに、フレンチのエスプリが香る。
しなやかな感性で伝統を繫ぐ料理は、美しい。