非凡な平凡
中野の「平凡」は、40数年も通うラーメン屋だ。
変化といえば、やせたシナチクのようなご主人から息子さんに代が変わって、ラーメン定食なる新メニューが加わり、若い料理人も厨房にいる。写真入のきれいな品書きも置かれた。
「ラーメン」550円を注文する。
変わらない。薄く塩味の強い、鶏がらにほんのり味の素のうまみが漂うスープ。削りたての柚子片が口元をさわやかにし、たっぷり浮かんだ長ネギと万能ねぎがアクセント。そこへからむは、かん水香る、昔ながらの中細めん。太いメンマはしっかりと煮込まれ、切りたてのチャーシューはしっとり崩れる。
変わらない。ブームに流されることなく、路地裏で平凡なラーメンを54年間、同じように作り続けている。
味に誠実が染みている。
インパクトのあるラーメン屋は数多くできたのはうれしいけど、ラーメンとは、学校帰りにお金を握りしめて食べる、あるいは宴席続きで荒れた舌と胃袋の気をふっとぬく、ごくごく身近で平凡なものではなかったのだろうか。
街角から平凡なラーメンがなくなっていくのが寂しい。
閉店