ねろん。ねろん。
蟹肉が舌にからみつく。
ねろん。ねろん。
肉が舌に甘えて、官能を揺さぶろうとする。
その朝、明石浦漁港に水揚げされたガザミは、女性料理人に抱えられて、銀座に向かった。
ぶつ切りにして、一年寝かしたエゴマ醤油に漬け、「おいしくなれよ」と、声かける。
ガザミは、その夜の宴会に出される予定だったが、なぜか忘れられ、ボクの目の前にあった。
もう皿に載せただけで、いやらしく、ちくちくと誘いくる。
蟹肉は、ねろんねろりんと身をよじり、卵はとろんでろんと舌に広がって、ナゾの甘みで惑わせる。
まだ蟹は生きている。
命の気配が、人間を翻弄しようとしている。
その様がどうにもエッチで、ボクの心拍を上げ、鼻息を荒くする。
突如そのまま食べ進む危うさを感じた。
そこで、ご飯にかけてみる。
ご飯の甘みと出会ったガザミは、さらに艶を増し、ご飯を猛然とかき込ませる。
後は空になった茶碗を無心で見つめ、一人笑う男がいた。

智映の作ったガザミのカンジャンケジャン