まるで黄色いスライムである。
箸でつまんで持ち上げると、つつぅと伸びて、粘りの根性を見せる。
そのまま口に入れると、ポタリと舌に落ち、甘やかな香りと優しい甘みが広がって、心を抱きしめる。
その途端に、おじさんもおばさんも子供もにこやかになる。
これが「三不粘」である。
卵黄、砂糖、ラード、水に澱粉だけで作られる。
大量の砂糖、ラード使うので、カロリーは凄まじいが、甘く感じないのは、ラードのコクが効いているからだろう。
発祥は、北京の老舗レストラン「同和居」と言われ、山東料理を出す同店は、に、白身と鶏胸肉の炒めという料理が人気だった。
しかし黄身が大量に残ってしまう。
この黄身だけを使って何か料理ができないか?
そう考えていたところ、ひとりが、確か河南の古い料理で、黄身だけで作る料理があったと言い出して、再現することになったのだという。
以来「同和居」の名物料理になった。
ただし作るのに、大変な労力と技術がいる。
混ぜあわせた材料を中華鍋に入れ、火加減を調整しながら、おたまで叩くようにして作っていくのだが、百数十回は叩かなければいけない。
「1日一回が限度です。そうでないと右腕が麻痺してしまって、他の料理が作れなくなる」。
今回作られた大阪「香味」の矢谷シェフはそう言われた。
東京では「龍水楼」の箱守シェフが有名で、京都では「京 静華」の宮本さんが作られる。
そして若手では今回の矢谷シェフである。
もう「同和居」では百数十回も叩いて作ることなく、当初の味は失われているという。
丹念にやっている店もあるのかもしれないが、真面目で誠実な日本人気質は、何回も何回も叩く。
こうして「皿に粘らず、箸に粘らず、歯に粘らない」というデザートは、日本で生き続けていくのだろう。