ザッパの映画を観た後に、焼き鳥屋に入った。
この界隈には、昔何度も訪れた二軒の焼き鳥屋があって、どちらにしようか悩んだが、一軒に決めて暖簾をくぐった。
30年ぶりである。
店主は、60代ほどで、ロックとは無縁と言う顔立ちをしてらっしゃる。
注文し終わった僕の手元にあるパンフを見て、店主が言った。
「ザッパを見てこられたんですか?」
いくらロックと無縁そうな大衆焼き鳥屋でも、ビートルズやストーンズならわかるだろう。
しかしザッッパですよ。
なぜ知っているんだろう。
しかもZAPPAという文字だけが書かれたパンフを見ての反応である。
おそらく、いや確実に、もう一軒の焼き鳥屋を選んでいたら、こんなことは起き得ない。
これもまた小さな運命である。
思わず聞いた「ザッパお好きなんですか?」
「いやお客さんに好きな人がいてね」。
小ぶりな焼き鳥を食べながら、そのお客さんの話でしばし盛り上がり、映画の余韻に浸ることができた僕は、小さな運命にそっと感謝した。
新宿「海老忠」