拝啓門上様、ナポリタンは、我々のアイドルですね。
なにせ、「生まれた時からアルデンテ」ではない我々の世代にとって、スパゲティという未知の世界と出会ったのが、ナポリタンですから。
その王道は、麺が太く柔らかい。
具はハムにピーマン、マッシュルームが基本です。
よく加熱されて丸くなったケチャップが、満遍なく麺に絡み、楕円のアルマイト皿に盛られている。
そう信じて生きてきましたが、最近は少し豪華になって、なかなかそういう店が少なくなりました。
老舗洋食屋「香味屋」のナポリタンを選んだのは、下品と上品がない混ぜになった味だからです。
中細麺に絡んだ味は、ケチャプの甘みが広がるけど、決してくどくない。
優しい味わいで心が温まる。たっぷり入った厚切りのマッシュルーム、極細ピーマン、薄切りの玉ねぎ、そして普通は上等なエビが入っていますが、今回はハムに変えていただきました。
丁寧な仕事が光るその味には、ナポリタンがご馳走だった時代の輝きを感じます。
その上品を、タバスコやチーズで少しずつ下品にしていく。
その行為がまた、この料理の魅力だと思うのです。