長い間「うるめいわし」を見くびっていた。
どちらかというと、寿司ネタにもなるマイワシに肩入れしていた。
脂ののったマイワシに対して、うるめいわしは味が淡白である。
ところが、高知は宇佐町にある「宇佐もんや」で、様々なうるめいわし料理が盛りあわされた「宇佐もんや定食」を食べ、すっかり概念が覆された。
ごめんなさい。
今まで私は無知でした。
「宇佐もんや定食」は、以下のラインアップである。
1うるめいいわしの刺身。
2うるめいいわしのぶっかけ漬け丼
3うるめいいわし南蛮漬け
4うるめいいわしのスティックフライ
5うるめいいわしのつみれ汁。
刺身を食べれば、微かにシコッした身の硬さがありながら、どこまでも滑らかである。
そして身の中よりうっすらと脂の甘さがにじみ出て、これはもう大至急ご飯!と叫びたくなるのであった。
東京では、万祝の刺身を食べることができても、うるめいわしの刺身を食べることは、叶わない。
小粋な味である。
これを寿司にしたら、うまいだろうなと、思う味でもある。
また南蛮漬けを噛み締めれば、うまさの奥にふくよかな味わいがある。
汁のつみれのクセはなくふわりとくずれ、フライは衣の香ばしさに負けることなき甘みが膨らんでいる。
そして漬け丼は、一気呵成に掻き込みたくなる力がある。
聞けば、これらはすべて「一本釣りうるめいわし」なのだという。
うるめいわしは、巻き網や棒受け網などで捕獲されることが多い。
しかし一本釣りは初めて聞いた。
魚たちが擦れ合い、鮮度が落ちてしまう網漁はせず、釣りのみによる量をしているのだという。
さらに釣り上げ後も魚体んに人間の手が触れることなく氷水で活き締めできるよう、「自動鈎外し機」を使用している。
豊かな高知の海ならではの、めぐみへの感謝が、うるめいわしへの経緯が生んだ漁なのだろう、
それがすなわち味に直結している。
感動のあまりその場で、「丸干し(1日干し)」を購入し、自宅に送った。
自宅で受け取ると、丸々太った一夜干しが身を寄せ合っている。
よく見るような痩せた丸干しではない。
早速朝ごはんに焼いた。
焦げ目がついたうるめいわしが、その名のもとになった大きな目をこちらに向け、早く食べろと誘いかける。
むしる。食べる。
大きな声で笑う。
これが本当の丸干しだ。
ご飯をわしわしと食べさせてしまう、魚の力に満ちている。
日本に生まれ育った幸せに感謝する、美味しさである。
同封のパンフレットに漁師さんの言葉が書き添えてあった。
「わしらのうるめいわしを、網漁のもんと一緒にしたらいかんぞ。一尾一尾に気ぃつこうて、テグス一本一本で勝負しゆき」。
「正直正銘、私が釣りました」言うて、どこへでも胸張って出せるで!!