「噛んじゃだめ」。
その肉を噛んだ時、本能が囁いた。
ランド産小鳩のロティである。
しなやかな肉体には、幼い感覚があって、いけないものを食べてしまったような禁断があった。
ゆっくり噛む。
慎重に噛む。
すると、小鳩の身体から凛々しい鉄分がしたたり落ちる。
ほんのりと拙い。
青い勢いがあって、それが愛しい。
歯がゆっくりと鳩の肉体にめり込んでいく。
肉汁がにじみ出て、口腔内を照らす。
甘い血が香って、鼻腔を濡らす。
赤ワインをそっと飲む。
ジュブレイシャンベルタンの男性的な力強い味が、小鳩の命を鼓舞する。
僕はそのまま宙を見つめながら、軽く失神する。
これがフランス料理だ。
小鳩の生態に敬意を払い、誠実に向き合いながら、精妙なキュイソンで仕上げた菊地シェフの感性と技があってこそ生まれた、かけがえのなき時間である。
「ブルギニオン」にて。
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