ハンバーグ 肉汁溢れる肉料理の傑作、九選(一九九九年十一月号)

食べ歩き ,

京橋ドンピエール 京橋 牛の滋味を堪能するならこの一店

黒毛和牛のハンバーグ二千円。センスのいい大皿に置かれたハンバーグは丸型で、直径八センチ、厚さは四・五センチ程。切るとその断面からは、肉汁がじわりと染み出てくる。挽き肉が実にきめ細かく、口の中で滑らかに崩れると、牛肉の熟成感あるうま味が一杯に広がっていく。一噛みごとに肉の甘み、香りに唸り、笑いがこみ上げてきてしまうほど。ポルト酒の甘みとコクを生かしたソースも、ハンバーグを引き立て、同時に猛然とご飯が恋しくなる。そのご飯は、艶やかに炊かれた魚沼産コシヒカリ。マスタード・マヨネーズソースを添えたカボチャのフリット、いんげんのバターソテー、ラタトゥイユ(季節によって変わる)といった、付け合せもおいしく、一点の曇りもない、気品溢れるハンバーグである。

中央区京橋2-3-4 tel.=03-3242-0141

営業時間=11:30~14:00、17:30~21:00

定休日=日曜日

 

 

香味屋 根岸 溢れる肉汁、名洋食店の逸

名洋食屋として広く知られる同店だが、名物メンチカツは食べたことがあっても、ハンバーグを食べたことがある人は少ないのではなかろうか。

白皿に置かれた楕円型のハンバーグ(千八百円)は、長さ十センチ、幅六センチ、厚さ四センチ程の威風堂々たるお姿。置かれた瞬間、艶やかな焦げ茶色のドミグラスソースから漂ってくる甘い香りに、唾が出る。香りに誘われ、ナイフを入れて切り込むと、断面から驚くほどの肉汁が皿に流れ出す。慌てて口に運べば、頬の内側一杯に甘い肉のジュースが溢れ、その程よく配分された牛肉と豚肉の滋味は、最後の一噛みまで途切れることがない。

濃厚で上品なキレを見せるソースもよい。付け合せは、塩炒めスパゲッティ(ドミグラをからめて食べるとうまし)、人参のグラッセ、オクラなど季節の野菜の塩茹で。ピカリと光るご飯(二百円)も上等。伊勢丹や帝国劇場地下の支店でもいただけるが、わざわざ電車代を払っても食べに行きたい蕫ごちそう﨟である。

台東区根岸3-18-18 tel.=03-3873-2116

営業時間=11:30~21:30(週末は要予約)

年中無休

 

ミスターガーリック 麻布十番 牛ヒレの滋味味わう、個性派ハンバーグ

イカメンチなど、ご主人の独創によるおいしい洋食が食べられる店として人気。ハンバーグは二種類。ランチのみに登場する牛挽肉のハンバーグ(千百円)もいいが、面白いのは夜の品書きに載るハンバーグ(二干五百円)。

楕円型で、長さ十六センチ、幅十センチ、厚さ二センチ程。焦げ茶色のドミグラスソースがかけられ、べーコンと同サイズの楕円に焼かれた日玉焼きが載る。付け合せは、シャトー型に切ったフライドポテトと人参グラッセに、塩茹でのサヤインゲン。一見普通のハンバーグ風だが、切ると七ミリ角の肉がほろほろと崩れながら現れる。このハンバーグは、注文が入ってから、牛ヒレ肉の塊を取り出し、小さく角状に切り、炒めた玉葱、パン粉、卵黄と合わせ、ソテーしてからオーブンで焼いたもの。練り肉というより、牛ヒレ肉の優しい滋味が閉じ込められた、上品な味わいのハンバーグ。ご飯もおいしい。

港区麻布十番1-8-5 パステル麻布地階

tel.=03-3583-6769

営業時間=11:30~14:00、17:00~22:00

定休日=日曜祭日

閉店

 

洋食マリー 町屋 ジューシーな味は下町の心意気

下町の裏筋にある小さな洋食屋さん。常連客が多く、気さくな店だが、料理はいずれも安いながらも質が高い。

ハンバーグを注文すると、シェフがたった一人で賄う厨房で肉を練り、パンパンッと空気を抜く。やがていい香りをまき散らしながら登場する楕円型のハンバーグ(千円)は、長さ十二センチ、幅八・五センチ、厚さ三・五センチ程の堂々たる体躯。ナイフを入れると、切り口からは半透明の肉のジュースがとろりと溢れ出す。柔らかく何ともジューシーなハンバーグで、ちょいと甘めのドミグラスソースとの相性も実にいい。付け合せはフライドポテト、人参グラッセ、茹でいんげんと王道。ご飯も上々。うまい、安い、大きいっと声をかけたくなる、下町の心意気が詰まったハンバーグだ。

荒川区町屋3-9-1 tel.=03-3895-1004

営業時間=17:30~24:00

定休日=火曜日

 

万平 神田須田町 意外な相性、オムレツハンバーグ

下町の粋な風情を残す界隈に佇むとんかつ屋さん。

ハンバーグは、目の前に現れた途端、「頼んだのはオムレツじゃないんですけど」と、いいたくなる異形な姿。

カリッと焼いたハンバーグを、薄焼卵でオムライスのようにくるりと包み、しょうゆとケチャップを混ぜた甘い照りのあるソースをどろりとかけてあるのだ。大きさは、長さ十七センチ、幅九センチ、厚さ二センチ程(卵入れず)。肉は豚肉百パーセントで、噛むと甘みがあり、半熟の卵の甘み、ソースの濃厚な甘みと渾然一体化してご飯が進むことこの上ない。付け合せは千切りキャベツにパセリ。ご飯と味噌汁、お新香付きで千六百円。

千代田区神田須田町1-11 tel.=03-3251-4996

営業時間=11:30~14:30、17:30~19:30

(土 11:00~14:00)

定休日=日曜祭日

閉店

 

 

山の上ホテル・ガーデン 御茶の水 一日五食、幻のハンバーグ

山の上ホテルのステーキハウス。ハンバーグは、「牛薄切りステーキ」という名で昼定食のみに登場。

和牛バラと肩ロースの切り落としをミンチ状にしたもので、一日五食しか用意されない幻のハンバーグ。まず最初に、楕円型にまとめた艶やかなピンク色の生肉を差し出し、「焼き加減はいかがいたしますか」と一言。その後、目前の鉄板で香ばしさを振りまきながら丁寧に焼かれる。長さ十八センチ、幅七センチ、厚さ二センチ程と、大きく、ミディアムレアなら中心部は鮮やかに赤く、うっすらと肉汁が滲む。脂が多い部位だが、くどくないキレのいい上質な脂の甘みを、肉の滋味とともに存分に味わえる。ソースは、肉汁と赤ワインを合わせたソースか、醤油にホースラディッシュを合わせた二種類より選べる。

付け合せはカリッと揚げられたホクホクのフライドポテト、ソテーのインゲン、人参グラッセ。小前菜、スープ、サラダ、デザート、コーヒー付きで三千五百円。

千代田区神田駿河台1-1 山の上ホテル内 tel.=03-3293-2311

営業時間=11:00~21:00

年中無休

 

 

キッチン大越 新一の橋 安くてうまい庶民派ハンバーグ

活気溢れる洋食屋。店内は安くうまい洋食を楽しむ人で常に賑わう。ハンバーグは、しじみの味噌汁とご飯(ご飯の代わりに塩炒めスパゲッティを選べば七百円)付きで七百三十円。大きさは、長さ九センチ、幅七センチ、厚さ六センチ程のころんとした丸型で、愛らしい。牛と豚、炒めた玉葱の甘みなどがバランスよく溶け合い、厚みのある柔らかな身はうま味のジュースがたっぷりと味わえる。甘めながらソースとして出過ぎない、さらりとしたデミグラスソースもよい。付け合せはキャベツのコールスロー。

エビフライ一本、カニコロッケ一個、目玉焼きなどを追加して一諸盛りにしてもらうなど、欲張りな注文も自由気まま。二百グラムのチーズハンバーグもぜひ。

港区東麻布3-4-17 tel.=03-3583-7054

営業時間=11:00~20:00 (土 ~15:00)

定休日=日曜祭日

 

ケテルス レストラン 銀座 肉々しい元祖ハンバーグ

ドイツ料理店の老舗。「ドイチェス・ビーフステーキ」三千三百円。ハンバーグの由来となった料理である。恐れ多い名前と値段に緊張しながら待っていると、敵は直径九センチの丸型の可愛らしい姿。しかし厚さは四センチ程。切れば中は赤々しいレアな肉が肉汁を滴らせている。新鮮な赤身の腿肉と玉葱、卵黄、生クリームを混ぜ合わせたこの料理は、生肉を食べているような肉々しさ。

上に載せられた香ばしい揚げ玉葱と一緒に、甘めでコクが深いグレービーソースをからめながら食べると優しい味わいに。付け合せはカラリと炒められた、おいしいジャーマンフライポテト、バターソテーインゲン、人参グラッセ。酸味あるライ麦ドイツパンが合う。

かつてこの店の上にゾルゲ(第二次世界大戦前夜に日本で暗躍したソ連のスパイ)の愛人だった華子さんが務めていたバーがあったという。

中央区銀座5-5-14  tel.=03-3571-4642

営業時間=17:00~21:45土日祭日 12:00~20:45)

定休日=無休

閉店

 

エドヤ 麻布十番 マスタードに合う香り豊かなハンバーグ

洋食屋の激戦区麻布十番で古くからの人気店。タンシチュー、カニコロッケ、ロールキャベツなど年来の名物料理が並ぶ中で、ハンバーグ(千三百円)も中々の実力者。目玉焼きを載せ、ふっくらと焼き上がった香ばしい姿は、長さ十二・五センチ、幅十・五センチ、厚さ三センチ程。柔らかな食感、合挽肉が練り込まれた温かみのある味わいで、生玉葱の刺激とナツメグの香りが程よいアクセントになっている。そのせいかマスタードをつけて食べるとおいしい。ドミグラスソースは甘味、酸味、ほろ苦味がバランスよく溶け合った上品な味わい。付け合せは、人参グラッセとほうれん草のバターソテー。

港区麻布十番2-12-8

tel.=03-3452-2922

営業時間=11:30~14:00、17:00~23:00

定休日=火曜日

2019年創業65年で閉店