おっちゃんの保育園、<京都の平生>5

食べ歩き ,

ここは新京極。
くぐるは、白地に赤く「スタンド」の暖簾。

開店から20分、はや満席だ。
右手は、ずずずいと奥へ伸びた、対面式の大理石のカウンター。、
左手は、相席ごめんの丸テーブル。
その間をサービスの女性陣が、駆け抜ける。
「いらっしゃい。一人? こっちへ座って。奥につめて座ってな」。
おばちゃんが指し示したテーブルに座った。

「ひえ~!」
同席は20代の女性二人組で、「から揚げハンバーグ定食」の量に悲鳴を上げている。

「スタウトにコロッケ」と、頼むと

「定食以外は少し時間がかかるけど、よろしですか」。
昼時だ、しょうがない。
冷えたスタウトでコクコクのどを鳴らしていると、ほどなくして、コロッケが登場した。

でかい。
テニスボール大のまん丸コロッケ二つ。

でかい。
10分前に焼き魚定食を食べ終えた胃袋に、挑みかかるでかさである

イモの甘さと衣の香ばしさに、たっぷりとソースが絡む。
そこへすかさずスタウトコクコク。
ぷはぁ~っと、幸せ満ちる。

やがて隣におっちゃんが座った。
灰色シャツ着た、70過ぎのおっちゃんだ。

「いつものでいい?」とおばちゃんいえば、黙ってうなずく。
「今日は水? お湯?」と聞けば、 「湯」>と、ぶっきらぼうに答える。

運ばれてきた梅干入りお湯割を、なめるように飲んでは、単行本を読む。
やがてもう一人おっちゃん相席。
ベースボールキャップかぶった80歳くらいの、めがねのおっちゃんだ。

こちらも常連らしく、くだんのおばちゃんから

「生でいい?」と聞かれている。
そのとき、灰色シャツおっちゃんが 「よこわ」>と一言、新たな注文。
必要最小限しかしゃべらへん。

まぐろの刺身が運ばれると、一切れ食べてはお湯割りなめて、2ページ進む。
おや、いつ頼んだのか? めがねのおっちゃんにはビフカツとご飯

一切れ食ってご飯食べては、生ビールをぐびり。

カウンター席には、70近いおっちゃん4人集団。
さっきから煮込み一つで、ずっと飲んでいる。
盛んにしゃべり、笑う。
うち一人が、煮込みではなく冷やし中華を酒の肴にしている次第。

まだ日曜の12時半。

ここはおっちゃんたちの保育園。