涙のポタージュ。
白いボウルに注がれた、薄茶色のポタージュが運ばれた。
目をつぶった。
目の前にあるのは、竹笊に山と盛られた松茸である。
その数は30ほどあるに違いない。
芳香が室内に漂い、顔を包み込む。
発散しようとする香りを、少しでも逃すものかと、
スプーンをとり、人すくい口に運んだ。
その瞬間
「ああっ」と叫んだまま、体が固まった。
脳幹が痺れ、舌が震えている。
松茸のすべてが、いや、余分を捨て、その芯だけを凝縮した、
松茸のすべて以上が、舌の上にある。
太い太い松茸を、口の中に押し込まれたような圧倒感に、身じろぎが出来ない。
香り、甘み、色気、野生。
松茸のエキスが、吟醸酒のように磨かれ、濃縮されて
舌の上をたゆたい、喉元に落ちていく。
我に返って
もう一口、もう一口と無心でスプーンを動かす。
「うまい」とコトバを発することさえ、もどかしい。
そして、
一滴、一滴となくなっていくことが、無性に悲しくなって、涙が滲んだ。
それはまた
松茸のかけがえのない生命と尊い力への、感謝の涙だった。
相当量の松茸を、ゆっくりゆっくりとスエし、
ほんの少しだけフォンドボライユを加え、クリームも油脂も何も加えず
ミキシングして濾したポタージュ。
角館「じん市」高橋一行、渾身の作品である。