そのおむすびは最強である。
現れた時から威風堂々として揺るぎない。
ずっしりと重いおむすびを持てば、優 握った人の人情が響いてくる。
割ればほら、筋子がこぼれでる。
一粒のつぶれもなく、赤をさらに赤く輝かせ、こぼれ出る。
よく見れば、粒と粒の間をつつうっと、エキスの橋がかかっている。
さあ食べよう。
あっ。
食べた瞬間に目を開く。
はらはらはらり。はらはらはらり。
米粒は、はらはらはらりと口の中で、舞い躍る。
甘みを開かせながら、一粒一粒が自立して旅立っていく。
そして筋子はその中で、ねっとりとした甘みを滲ませながら、つぶれていく。
米の優しい甘みと筋子の濃い甘みが出会い、幸せの頂点がやってくる。
誰もが満面笑みを浮かべて、崩れ落ちる。
ただ握っているのではない。
おむすび用の筋子は、少しだけ皮をとり、小分けしてある。
炊きたてあつあつご飯に乗せて、そうっと握ってやる。
筋子がつぶれぬよう、ご飯で優しくハグをする。
ご飯の熱で筋子は甘みを増して、いきいきと爆ぜ、力の限りを発揮する。
日本三大おむすびの一つだと信じて疑わない、居酒屋「土紋」のすじこおにぎり。